個人事業主が建設業許可を取得する方法:一人親方特有の要件・費用・必要書類の全て

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個人事業主(一人親方を含む)が建設業許可を取得することは、500万円を超える工事の受注を可能とし、事業の信用力と拡大の上で必要不可欠な手続きです。

取得の方法は、法人と異なります。

事業主本人が経営業務の管理責任者(経管)や専任技術者の要件を兼ねることができる点に特徴があります。

しかし、

  • 公的な証明書類の整備
  • 財産的基礎の証明

など、個人事業主特有の難しさがあります。

当事務所は、東京、埼玉、千葉、神奈川エリアの個人事業主様に特化し、新規取得から法人化まで一貫した支援を提供します。

個人事業主が建設業許可を必要とする背景

結論:個人事業主が建設業許可を必要とする最大の背景は、

  1. 請負金額500万円以上の受注制限の壁
  2. 元請け・発注者側が求めるコンプライアンス要求の強化

にあります。

許可なしでの事業継続は、法的・経済的リスクが大きすぎます。

500万円の壁と「軽微な工事」の定義の詳細

建設業法第3条により、建設工事の請負契約の額が500万円(税込)以上の工事を請け負う場合、原則として建設業許可が必須となります。

この500万円未満の工事を「軽微な建設工事」と呼び、許可不要とされています。

500万円基準の具体的な算出方法と法的解釈

この基準額の算定において、消費税および地方消費税を含む請負代金全体が含まれる点が重要です。

また、発注者から提供される資材の価格(有償・無償に関わらず)も工事の請負代金総額に合算されます。

この合算規定は、工事費を意図的に下げて許可を逃れようとする行為を防ぐためのものです。

さらに、最も注意すべきは「分割契約」の解釈です。

一連の工事を、発注者が同一で、同一の目的に基づき複数に分割して請け負った場合、それらを合算した金額が500万円を超えると、全体として許可が必要な工事とみなされます。

例えば、一つの建物のリフォーム工事を、時期をずらして

  • 「内装工事300万円」
  • 「外壁工事300万円」

と分けて契約しても、実質的には一式の工事と判断されます。

合計600万円となり無許可営業とされます。

無許可営業がもたらす致命的なリスク

この500万円以上の工事を無許可で請け負った場合、「無許可営業」として建設業法第52条に基づき、3年以下の懲役または300万円以下の罰金、あるいはその両方という重い刑事罰の対象となります。

一度、刑事罰を受けると、その後の5年間は建設業許可の欠格要件(許可取得ができない期間)に該当します。

そのため、合法的な事業継続が極めて困難になります。

法的リスク回避のためにも、事業の拡大フェーズに入る前に許可取得が必須となります。

許可不要の例外規定(建築一式工事)の限界:

例外として、

建築一式工事の場合は、請負代金が1,500万円未満。

または延べ面積が150平方メートル未満の木造住宅工事。

上記に限って許可が不要となります。

しかし、ほとんどの専門工事業(塗装工事業、電気工事業、管工事業など)では一律500万円が上限となります。

個人事業主が事業を継続的に成長させる上で、この500万円の壁は絶対に突破しなければなりません。

コンプライアンス強化と市場の変化:元請けからの要求

近年、建設業界全体でコンプライアンス(法令遵守)体制が重視されるようになりました。

大手元請け企業や公共事業の発注者側は、下請け業者に対して厳しい信頼性と透明性を求めています。

元請け選定基準の厳格化と取引機会の制限:

大手ゼネコンやハウスメーカーは、企業イメージの維持と法令リスクの回避のため、下請け業者が建設業許可を持っていることを取引開始の必須条件としています。

許可がない場合、優良な元請けとの新規取引はほぼ不可能となります。

受注できる工事の質と量が大幅に制限されます。

許可の有無は、

  • 技術力
  • 財務力

そして社会保険への適法な加入状況を行政庁が審査したことの証明です。

企業間取引における信頼性の証となっています。

許可の取得は、事業のレベルを一段階上げるための「資格証明」として機能します。

社会保険加入の義務化と許可の関連性の強化:

建設業では、労働者の健康と福祉を守るため、社会保険(健康保険、厚生年金、雇用保険)への加入が厳しく義務付けられています。

特に建設業許可業者は、その加入状況を行政庁に定期的に報告する義務があります。

未加入業者に対する行政指導やペナルティが強化されています。

許可を持つことは、この社会保険の適正加入を含む、広範な法令遵守体制が整っていることの証明となります。

取引の機会を広げるとともに、企業としての信頼性を高めます。

未加入業者との取引は、元請けにとってもリスクとなるため、許可取得はコンプライアンス体制構築の第一歩です。

個人事業主が建設業許可を取得するメリット

結論:建設業許可を取得することで、

  • 個人事業主は事業規模の拡大
  • 金融機関からの信用力向上

そして安定した資金調達の可能性という、3つの大きなメリットを享受できます。

法人化への円滑な移行の基盤を築くことができます。

受注制限の解除と事業規模の拡大

許可取得は、500万円以上の大口工事の受注を可能にします。

個人事業主としての事業の質と量を飛躍的に向上させます。

大規模工事の受注機会の獲得と競争力の強化:

許可を持たない個人事業主が請け負えるのは500万円未満の軽微な工事のみですが、許可を取得すれば、数千万、数億円規模の工事の受注機会が生まれます。

これにより、年間売上高の飛躍的な増加が見込めます。

特に、元請けや一次下請けとしての地位にステップアップすることで、利益率の高い工事や、安定した継続的な取引が可能となり、市場での競争力を根本的に強化できます。

新しい市場への参入と公共工事入札資格の取得:

建設業許可は、国や地方自治体が発注する公共工事の入札に参加するための必須要件です。

許可を取得した後、経営事項審査(経審)を受け、さらに自治体ごとの入札参加資格審査を経ることで、公共工事市場への参入が可能となります。

公共工事は、民間工事と比較して支払いサイトが安定しております。

不況時にも安定した収益源となるため、事業の安定化と成長の大きな柱となります。

金融機関からの信用力向上と資金調達の優位性

建設業許可は、金融機関からの融資審査において、個人事業主の信用力を大幅に向上させる決定的な要素となります。

融資審査での有利な評価と資金調達の容易化:

個人事業主は法人と比較して信用力が低いと見なされがちですが、建設業許可の保有は、

  • 事業の継続性
  • 技術力

および財務状況の健全性が行政庁によって公的に確認されていることの証明となります。

これにより、金融機関からの事業融資(運転資金、重機購入資金、設備投資資金)の審査において、非許可業者と比較して格段に有利な条件(低金利、高融資枠、迅速な審査)を引き出す可能性が高まります。

許可は、事業の安定的な成長を支える資金調達能力を直接的に強化します。

財務状況の透明性の確保と対外的な信頼:

建設業許可業者は、毎年の決算変更届において、建設業会計に基づいて作成された詳細な財務諸表(貸借対照表、損益計算書など)を行政庁に提出します。

この公的な提出記録は、事業の財務状況の透明性を保証します。

金融機関や取引先からの信頼を高める材料となります。

許可の維持自体が、事業の健全性を継続的に証明するシステムとして機能します。

個人事業主が建設業許可を取得するための五大要件

結論:個人事業主が許可を取得するための要件は「5つ」あります。

特に「経営業務の管理責任者」と「専任技術者」の要件は、事業主自身の過去の経験をいかに公的に証明するかが鍵となります。

経営業務の管理責任者(経管)要件の充足方法の詳細と証明書

令和2年の建設業法改正により、経管要件は柔軟化されましたが、個人事業主が自らの経験で要件を満たす方法と、その証明方法を詳細に解説します。

  • 事業主本人の経営経験(旧A要件相当)の証明と必要年数: 最も一般的かつ確実な方法は、申請する業種(または関連業種)において、個人事業主として5年以上の経営経験を有することを証明することです。この「経営経験」は、単なる現場作業ではなく、契約締結、資金調達、人事管理、労務管理など、事業経営全般に関する業務執行の経験を指します。

    • 証明書類の具体的な連動:この5年間の経験を証明するためには、以下の公的書類が連動していることが必須です。

      1. 過去5年以上の確定申告書(青色申告書Bまたは収支内訳書):税務署の受付印またはe-Taxの受信通知が必須。事業所得が計上され、事業内容が建設業を営んでいたことが明確に示されている必要があります。

      2. 事業開業届出書および青色申告の承認申請書:事業の開始日と継続的な事業活動の意思を証明します。

      3. 経歴書:本人の経歴書に、5年間にわたる経営業務の内容を詳細に記載します。

    • 確定申告書がない場合の対応:確定申告書を紛失している、あるいは白色申告で詳細な記載がない場合は、税務署で「納税証明書(その2:所得金額の証明)」を取得したり、過去の事業取引を証明する契約書を補足資料として提出したりするなど、代替的な証明方法を検討する必要があります。

  • 経営体制の確保(新要件)の具体的な適用例と戦略: 事業主本人に5年間の経験がない場合でも、経営業務を補佐する者(経営管理経験者等)を常勤させることで要件を満たすことが可能です。この補佐者は、建設業の財務管理、労務管理、契約管理、技術者配置のいずれかの経験を2年以上持っている必要があります。個人事業主がこの新要件を適用するケースはまだ少ないですが、配偶者や家族を従業員として雇用し、経理や契約業務の経験を積ませることで、将来的に経管要件を充足させる戦略が考えられます。この場合も、補佐者に対して実態を伴う給与支払いと常勤性の証明が必要です。

  • 専任技術者との兼任のメリットと証明の難しさ: 個人事業主は、事業主本人が経管要件と専任技術者要件の両方を兼任することができます。これにより、外部人材を雇用するコストを削減できますが、常勤性の証明は両方の要件で厳しく問われます。営業所での執務と現場作業のバランスが重要となり、営業所の実態(設備、独立したスペース)を客観的に証明する必要があります。

専任技術者要件の証明と実務経験10年の壁の克服戦略

専任技術者の要件は、知識と技術的権威を証明する上で最も難易度が高い部分です。

特に資格を持たない個人事業主にとっては「実務経験10年」の壁を越えるための綿密な戦略が必要です。

  • 国家資格による証明の優位性、種類、および等級: 一級・二級建築施工管理技士、土木施工管理技士、電気工事士、技術士などの指定された国家資格を保有している場合は、実務経験の証明が不要となり、手続きが大幅に簡略化されます。資格証明書の写しを提出するだけで要件が充足されます。資格の種類によっては、一般建設業許可の専任技術者になれる業種と等級(例:二級施工管理技士は指定された業種の「一般建設業」のみ)が定められているため、申請する業種との整合性を確認する必要があります。

  • 実務経験10年証明の具体的な方法、必要書類、そして困難性の克服戦略: 資格がない場合、申請業種に関して10年以上の実務経験を証明する必要があります。

    • 実務経験証明の困難性:個人事業主の場合、過去10年間にわたるすべての工事について、発注者との「請負契約書」「請求書」「入金が確認できる通帳のコピー」という3点セットを連続的に揃えているケースは極めて稀です。特に10年という長期にわたる書類の連続性が求められます。

    • 克服戦略:代替書類と発注者協力:書類が不足している場合、以下の代替手段を検討します。

      1. 発注者からの工事内容証明書:過去の取引先に、工事の内容、請負期間、金額を証明する書面を発行してもらう。これが最も証明力が高い代替手段です。

      2. 工事台帳や見積書の整理:請負契約書がない小規模工事についても、見積書、納品書、工事写真、そしてそれに対応する入金履歴を整理し、行政庁が納得する形で経験を裏付ける必要があります。

      3. 実務経験の期間短縮:指定学科(土木工学、建築学など)を卒業している場合、高校卒業で5年、大学・高等専門学校卒業で3年に短縮されます。この学歴による短縮を最大限活用することが重要です。

  • 常勤性の証明と現場兼任の原則禁止: 専任技術者は、営業所に常勤している必要があり、原則として現場常駐や他社との兼業は禁止されています。常勤性を証明するため、住民票、健康保険証、そして営業所での執務状況を示す写真などの提出が求められます。自宅兼営業所の場合、営業専用のスペースを確保し、事業専用の電話回線を設けるなど、実態を示すことが重要です。

財産的基礎要件の徹底解説:500万円証明の具体的な手法と注意点

一般建設業の許可を取得するためには、「500万円以上の自己資本又は資金調達能力」を有することが必須です。

この要件を満たすための具体的な手法と、行政庁が確認する上での注意点を深掘りします。

  • 貸借対照表(B/S)による証明の具体例と建設業会計への調整: 直前事業年度の確定申告書に添付される貸借対照表(B/S)上の「純資産の部」の金額が500万円以上であることを証明します。個人事業主の場合、税務署提出用のB/Sは、建設業法施行規則で定められた建設業会計の様式とは異なります。特に、個人事業主特有の「元入金」や「事業主勘定」を適切に処理し、建設業法に準拠した財務諸表に作り直す必要があります。この調整作業は専門的な知識を要するため、行政書士や建設業専門の税理士に依頼するのが一般的です。

  • 残高証明書による証明の具体的な手順と資金の安定性の確保: 純資産額が500万円に満たない場合は、金融機関が発行した500万円以上の預金残高証明書を提出します。

    1. 証明日の設定:証明書は、原則として申請日直前(多くは7日以内)の日付で発行してもらう必要があります。

    2. 証明書の発行:事業主名義の普通預金口座または定期預金口座の残高を証明してもらいます。発行には、取引銀行の窓口での申請が必要です。

    3. 資金の安定性の確保:許可申請のために一時的に資金を調達しても、直後に引き出してしまうなど不自然な資金の移動があった場合、行政庁から資金の安定性について実態確認が入る可能性があります。証明した資金は、事業を遂行するための運転資金として、許可取得後も一定期間は維持することが望ましいです。

建設業許可が個人事業主にもたらす影響と義務

結論:建設業許可の取得は、個人事業主としての事業拡大に大きなメリットをもたらしますが、費用や継続的な義務などのデメリットも理解しておきましょう。

法令遵守の体制を構築する必要があります。

許可維持に伴うデメリット、継続的な義務、そして社会保険の課題の具体化

建設業許可を維持するためには、新たな事務負担、コスト、そして継続的な法令遵守(コンプライアンス)が求められ、これを怠った場合の影響を理解する必要があります。

  • 費用と手間の具体的な発生構造と事務負担の分析: 許可取得時の法定手数料9万円と行政書士への報酬に加え、許可維持のために以下の継続的な義務が発生します。

    1. 毎年の決算変更届の提出:事業年度終了後4ヶ月以内(通常4月30日まで)に、工事経歴書や建設業会計に基づいた財務諸表を作成・提出します。この財務諸表は、通常の税務申告とは異なる独自の形式であり、専門知識が必要です。

    2. 5年ごとの更新手続き:法定手数料5万円が必要です。更新申請時に決算変更届の提出漏れがあると、更新が認められず、許可が失効します。 これらの事務作業は非常に煩雑であり、個人事業主が本業と並行して行うのは現実的ではありません。多くの場合、これらの手続きを行政書士や専門の税理士に依頼するコストが毎年発生します。

  • 専任者の常勤義務の厳格な適用と兼任規制の詳細: 経営業務の管理責任者(経管)と専任技術者は、申請した営業所に「常勤」し、専属的に勤務している必要があります。他の会社の役員や従業員との兼任は原則として認められません。個人事業主がこれらを兼任する場合、常勤性の証明は特に厳格です。

    • 常勤性の証明書類:住民票の写し、健康保険証の写し(事業主名、勤務地が記載されたもの)、雇用保険の加入状況、そして営業所の実態を示す書類(賃貸借契約書、看板、固定電話、執務スペースの写真)が必須です。自宅兼営業所の場合、自宅とは別に事業専用のスペースが確保されていることが重要です。

    • 現場兼任の可否:専任技術者は、営業所の専属であるため、原則として現場に常駐することはできません。しかし、個人事業主や小規模事業者の場合、やむを得ず現場を兼務する場合は、その間に営業所での職務(契約、見積もり、技術指導)を適切に遂行できる体制(例えば、代理人の配置や遠隔での連絡体制)が整っていることを証明する必要があります。

建設業許可申請に必要な書類の具体的な準備と収集

結論:個人事業主の許可申請では、法人とは異なる書類の様式や証明方法が適用されます。

そのため、特に実務経験と経営経験の裏付けとなる公的書類を正確に収集・作成することが成功の鍵となります。

個人事業主が準備すべき必須書類の詳細と作成ポイント

個人事業主の建設業許可申請は、提出書類の量が非常に多く、収集と作成に細心の注意が必要です。

  • 申請様式(個人事業主用)の構成と作成ポイント: 主要な様式として、許可申請書(様式第一号)、営業所一覧表、工事経歴書、使用人一覧表、誓約書、経管証明書、専任技術者証明書、財産的基礎証明書など、合計で30種類以上にも及ぶ様式を作成します。個人事業主の場合は、法人の役員等に関する調書の代わりに「個人の調書(事業主本人の略歴書)」を提出します。全ての様式は、申請先の都道府県庁のホームページからダウンロードできますが、作成には建設業法特有のルールに従う必要があります。

  • 経管経験証明の裏付け書類リストと行政手続き:

    • 事業主の調書(略歴書):事業主の氏名、本籍地、略歴を詳細に記載します。

    • 確定申告書(5年分以上):税務署の受付印またはe-Taxの受信通知があることが必須です。

    • 事業開業届(写し)および青色申告承認申請書(写し)。

    • 身分証明書:本籍地の市区町村で発行される「破産宣告を受け復権を得ない者に該当しないことの証明」です。発行には本籍地への郵送請求が必要です。

    • 登記されていないことの証明書:法務局で発行される「成年被後見人及び被保佐人に該当しないことの証明」です。

法定手数料と行政書士報酬の構造の深掘り

建設業許可の取得にかかる費用は、法定手数料と行政書士報酬に加えて、実費も考慮する必要があります。特に行政書士報酬は、実務経験証明の難易度が大きく影響します。

  • 法定手数料と納付方法の詳細: 都道府県知事許可の新規申請費用は9万円です。これは審査のための費用であり、許可の可否に関わらず返還されません。納付は、各都道府県が定める収入証紙(東京都収入証紙、埼玉県収入証紙など)によって行われるのが一般的です。電子申請に対応している行政庁の場合は、電子納付が可能です。

  • 行政書士報酬の変動要因と相場: 個人事業主の許可申請の行政書士報酬は、難易度によって25万円~45万円程度が相場ですが、以下の要因で報酬額が変動します。

    1. 実務経験証明書類の整理状況:過去10年分の書類が整っている場合は低額、書類収集や発注者への協力依頼が必要な場合は高額になります。

    2. 財産的基礎の証明方法:残高証明書の手配が必要な場合、手続きのサポート費用が加算されることがあります。

    3. 申請地域の厳格性:東京や神奈川など、審査が特に厳格な地域は、事前相談や補正対応の手間を考慮して報酬が高めに設定される傾向があります。

許可取得までの標準期間と迅速化のポイント

許可取得までの期間は、「事前の書類収集期間」と「行政庁の審査期間」を合わせて通常2ヶ月から4ヶ月程度が目安となりますが、迅速化のための戦略を解説します。

  • 準備期間短縮のための最優先戦略: 最も時間がかかるのは、専任技術者の実務経験を裏付ける「過去10年分の請負契約書や請求書」の収集・整理です。許可取得を決意したら、すぐにこれらの書類を整理し、不足しているもの(特に過去の取引先との契約書や入金履歴)の特定と代替書類(発注元証明書など)の手配を最優先で行うことが、準備期間を短縮する最大の鍵です。

  • 審査期間の補正リスク回避と事前相談の徹底: 行政庁の標準処理期間(約30~45日)は、申請書類に不備がないことが前提です。書類に不備があった場合、行政庁から「補正(追加資料の提出指示)」が入り、審査期間が大幅に延長されます。このリスクを回避するため、地域の行政書士に依頼し、申請前に行政庁の窓口で「事前相談」を徹底的に行い、申請書類の完成度を極限まで高めておくことが、迅速な許可取得を実現するための唯一の方法です。

個人事業主の許可取得後の社会保険と法人化戦略

結論:許可取得後も、毎年の決算変更届や5年ごとの更新に加え、社会保険への適正な加入は必須の義務です。

事業拡大を見据えた法人化戦略の検討も重要となります。

建設業許可維持の必須義務:決算変更届と更新手続きの網羅的解説

許可を取得した建設業者は、個人事業主であっても継続的な義務を負います。これを怠ると、許可の更新ができず、事業継続に致命的な影響が生じます。

  • 決算変更届(事業年度終了報告)の提出の重要性と手順: 個人事業主は、毎年の事業年度終了後4ヶ月以内(通常4月30日まで)に、管轄行政庁へ決算変更届を提出する義務があります。この届出には、以下の詳細な情報が含まれます。

    1. 工事経歴書:過去一年間に行った全ての建設工事について、詳細(工事名称、場所、請負金額、工期、発注者名など)を記載。

    2. 財務諸表:確定申告書に添付される財務諸表を建設業法に定められた様式に変換して作成。

    3. 各種変更届:営業所の移転、事業主の氏名変更、使用人の変更などがあった場合は、同時に変更届を提出。 この届出を5年間怠ると、5年ごとの更新申請が受理されず、許可が失効します。

  • 5年ごとの更新手続きの詳細と要件再確認: 許可の有効期間満了日の3ヶ月前から30日前までに更新申請を行います。更新時には、新規申請時と同様に、経管、専任技術者、財産的基礎、欠格要件の全ての再確認が厳格に行われます。特に、以下の点が重点的に審査されます。

    1. 社会保険の加入状況:最新の加入状況が適法であるかの確認。

    2. 専任技術者の在籍確認:技術者が引き続き常勤しているか、健康保険証などで確認。

    3. 財産的基礎の再確認:純資産額が500万円以上であるか、または残高証明書で資金調達能力があるかの再確認。

社会保険加入の義務化と個人事業主の対応

建設業における社会保険(健康保険、厚生年金保険、雇用保険)への加入は、今や許可の要件として厳しく問われています。

  • 個人事業主の社会保険加入の義務と境界線:

    • 労働者を雇用する場合:雇用保険と労災保険(一人親方自身は特別加入)への加入は必須です。

    • 常時5人以上の従業員を雇用する場合:健康保険・厚生年金への加入が強制となります(個人事業の任意適用事業所)。従業員が5人未満の場合でも、将来の事業拡大を見据えて、任意で加入することが可能です。

  • 許可更新時における社会保険のチェック体制と罰則リスク: 行政庁は、許可更新時に提出される「健康保険等の加入状況」に関する書類を厳しくチェックします。社会保険の加入義務があるにもかかわらず未加入である場合、行政指導の対象となります。これを無視した場合、建設業法第28条の「誠実性の欠如」と判断され、営業停止処分や許可取り消しにつながる可能性があります。社会保険に関する専門家(社会保険労務士)と連携し、法令を遵守した体制を構築することが、許可を維持する上で不可欠です。

個人事業主から法人化(法人成り)への戦略的移行

建設業許可を持った個人事業主が、さらなる事業拡大、信用力向上、節税対策のために法人化する際の最適戦略と手続きの詳細を解説します。

  • 法人化のメリットの具体的な側面:

    1. 社会的信用の向上:株式会社などの法人格を持つことで、金融機関や大規模な元請けからの信用度が飛躍的に向上します。

    2. 節税効果の実現:所得税(累進課税)から法人税(税率が安定)に変わり、所得が一定額を超えると法人税率の方が有利になるため、大きな節税効果が期待できます。

    3. 資金調達の容易性:法人格は、融資や出資を受ける際の基盤となり、事業の拡大を支える安定的な資金調達が可能になります。

  • 許可承継手続きの特例と注意点: 個人事業主が許可を持ったまま法人化する際は、「個人許可の廃業届」と「法人による新規許可申請」を同時に行います。この際、個人事業主時代の経営経験や専任技術者としての経験を、新設する法人の経験として引き継ぐ「事業承継の特例」を活用できます。ただし、以下の条件を満たす必要があります。

    1. 事業主の常勤役員就任:個人事業主本人が、新設法人の代表取締役などの常勤役員に就任すること。

    2. 専任技術者の引き継ぎ:専任技術者も引き続き法人で常勤すること。 この手続きは、行政書士、司法書士、税理士の三士業が連携して行う必要があり、手続きが複雑なため、専門家によるサポートが不可欠です。

関東4都県の地域別審査傾向と行政書士の役割

結論:東京、埼玉、千葉、神奈川の知事許可は、それぞれ独自のローカルルールと審査傾向があり、地域の行政庁の指導基準を熟知した専門行政書士への依頼が、許可取得の確実性を高めるための最善策です。

地域別ローカルルール:東京・神奈川・埼玉・千葉の傾向と対策

知事許可を管轄する各行政庁は、専任技術者の常勤性、営業所の実態確認、実務経験の証明方法に関して、独自の指導基準を持っています。

  • 東京都の厳格な審査基準と常勤性証明: 東京都は、全国で最も審査が厳格な地域の一つです。特に、経管・専任技術者の「常勤性」確認を徹底しており、健康保険証の写しや、他社との兼任がないことを証明する「誓約書」だけでなく、個人の確定申告書の内容まで確認し、常勤性を裏付けます。また、実務経験証明書についても、契約書の記載内容と工事実績の整合性について、他の都道府県よりも詳細な補足資料を求められる傾向があります。

  • 神奈川県・埼玉県の重点審査ポイント:

    • 神奈川県:実務経験証明の書類の連続性工種の一致を重視します。書類の記載が曖昧な場合、発注者への確認が入る可能性もあります。

    • 埼玉県:営業所の実態確認に重点を置いています。自宅兼営業所の場合、専用の執務スペースが確保されているか、固定電話や看板などの営業実態を示す設備が整っているかを、厳格な写真審査で確認されます。

  • 千葉県の審査特徴と対策: 千葉県は、欠格要件の審査(法令違反歴や反社会的勢力との関係)に対して厳しく、事業主本人の公的証明書(身分証明書、登記されていないことの証明書)の準備を迅速に行う必要があります。

行政書士によるトータルサポートと依頼のメリット

建設業許可の専門行政書士に依頼することで、煩雑な許可手続きを確実に期限内に完了させ、事業主様は本業の建設工事に専念することが可能となります。

  • 実務経験証明の代行と戦略構築: 最も困難な過去10年分の請負契約書の精査、不足している書類に対する代替書類の提案、そして行政庁が納得する形での実務経験証明書の作成を代行します。これにより、お客様は書類集めの重労働から解放され、許可取得の確実性が大幅に向上します。

  • 要件充足の事前診断とコンサルティング: 経管、専任技術者、財産的基礎など全ての要件が現状で満たせるかを詳細に診断し、不足する場合は、資格取得、役員構成の変更、資金調達のタイミングに関する具体的な戦略を提案します。

  • 許可取得後の継続的支援とリスクマネジメント: 新規取得後も、5年ごとの更新手続き、毎年の決算変更届、各種変更届の提出を確実にサポートし、無許可状態になるリスクを回避します。また、法令改正情報(例:働き方改革関連法)を随時提供し、お客様の法令遵守体制を継続的に支援します。

サイト外リンク

  1. 国土交通省:建設業法の規定

  2. e-Gov法令検索:建設業法

  3. 国税庁:個人事業主の開業・廃業等に関する届出

佐藤栄作行政書士事務所 | 公開日:2025.12.10 06:30 
更新日:2025.12.10 14:27

この記事を書いた人

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