特定建設業許可のメリット・デメリット徹底比較:要件、費用、取得難易度まで

建設業を営む企業にとって、特定建設業許可の取得は、事業拡大と大規模な工事への受注を可能にする大きな一歩です。
しかし、この特定建設業は、一般建設業に比べて要件が厳しく、特に財務基礎や技術者の配置義務において大きな違いがあります。
「特定建設業のメリット・デメリット」を正確に比較検討せず、安易に申請を進めると、維持のための費用や義務が重荷となり、経営を圧迫する可能性があります。
今回の記事は、東京、埼玉、千葉、神奈川の建設業許可を専門とする行政書士が、特定建設業のすべてを解説する完全ガイドです。
一般建設業との違いを明確にします。
要件、費用、難易度、そして税金への影響まで、徹底的に解説します。
自社にとって特定建設業の取得が本当に有益かどうか、判断するための軸を提供します。
特定建設業と一般建設業:請負規模による明確な違い
結論:特定建設業と一般建設業の最も大きな違いは、「下請へ発注できる請負契約の金額の上限」にあり、特定建設業は元請として4,000万円以上(建築一式工事は6,000万円以上)の下請契約を締結する際に必要な許可です。
区分を分ける「発注金額」の基準と建設業法
建設業法では、元請として工事を請け負う場合、その工事の一部を下請に発注する金額によって、取得すべき許可の種類が定められています。
この制度は、大規模な建設工事における下請の保護と施工の適正な管理を目的としています。
| 許可の種類 | 元請が下請へ発注する請負代金の額 | 該当する事業者 |
| 一般建設業 | 4,000万円未満(建築一式は6,000万円未満) | 主に自社施工や小規模な下請発注の業者 |
| 特定建設業 | 4,000万円以上(建築一式は6,000万円以上) | 大規模な工事を請け負う、ゼネコンなど多数の下請を管理する業者 |
一般建設業の許可で請け負える工事の金額は、元請として受注する金額自体に制限はありません。
しかし、下請発注額が500万円を超えると主任技術者の配置が必要となります。
さらに上記の上限を超える下請契約を締結することは特定建設業の許可がないと法令違反となります。
「下請指導義務」の詳細と元請としての責任
特定建設業には、一般建設業にはない、下請業者に対する指導監督の義務が建設業法第29条で規定されています。
この義務は、下請保護と適正な取引の確保を目的としております。
特に、代金の支払いや契約の締結に関 して厳しく指導する必要があります。
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下請契約の書面化:請負契約を締結する際は、契約書を作成して交付する義務があり ます。
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不当な取引の禁止:不当に低い請負代金の設定や、資材の購入を強制する行為など、下請業者に不利益を与える行為は禁止されています。
特定建設業の元請は、これらの規定を徹底することで、自社のみならず、業界全体の信頼と品質の向上に寄与することが求められます。
特定建設業 取得のメリット:事業拡大と企業価値の向上
結論:特定建設業の最大のメリットは、下請への発注金額に上限がなくなることで、大規模な建設工事や大型の公共工事を元請として受注し、企業の成長と社会的な信用を向上させることが可能になる点です。
メリット1:受注規模の飛躍的拡大と利益率の向上
特定建設業を取得すると、元請として請け負う工事の金額に制限がなくなり、
規模の大きなプロジェクトに参加することが可能になります。
数億円、数十億円といった大規模な建築や土木の一式の工事を受注できるようになるため、企業の売上高を短期間で大幅に増加させることができます。
大規模工事は一般に利益率が高い傾向にあり、経営基盤の強化に直結します。
特定建設業の取得は、高い収益を得るための不可欠なステップと言えます。
メリット2:公共工事への本格参入と社会的地位の確立
公共工事の入札へ参加する際は、経営事項審査(経審)の結果が非常に重要です。
特定建設業の要件である厳格な財務基準を満たすことは、経審において財務体質の安定性を証明することになります。
高い評点を得やすくなります。
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経審評点の向上:特定建設業の財務指標は、一般建設業と比べ て有利に評価される傾向にあり、入札での競争力を高めます。
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社会的な信用:特定建設業を保有していることは、行政や発注者に対して、技術力、管理能力、財務能力の三つを高レベルで満たした優良な建設業者であることを証明します。これは民間工事の受注拡大にも繋がります。
メリット3:金融機関からの融資と資金調達の円滑化
特定建設業の許可は、金融機関からの評価も向上させます。
厳格な自己資本や流動比率の要件をクリアしている企業は、信用度が高く、融資の審査がスムーズに進めやすくなります。
新たな事業拡大や設備投資の際にも、有利な条件で資金調達が可能となる期待が持てます。
特定建設業 取得のデメリット:厳格な義務とコスト
結論:特定建設業のデメリットは、一般建設業にはない「厳格な財産的基礎の要件」と「監理技術者の必須配置」に伴う費用や維持の労力が大きく、特に欠損の額や流動比率などの財務管理が厳しくなる点です。
デメリット1:財産的基礎要件の厳格な維持管理と費用
特定建設業の取得で最も大きな課題となるのが、財産的基礎の要件です。
一般建設業とは比べものにならない厳しさで、以下の要件を継続的に満たす必要があります。
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資本金が2,000万円以上(欠損の額が資本金の20%を超えていないこと)。
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流動比率が75%以上であること(流動資産を流動負債で割った比率)。
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自己資本が4,000万円以上であること。
これらの基準を満たさない場合、許可取得が不可となる他、更新時にも厳しく審査されるため、常に経営状況を監視する必要があります。
要件をクリアするために行った増資や財務調整に伴う税務上の費用も考慮する必要があります。
デメリット2:監理技術者の必置義務と高まる人材コスト
特定建設業が大規模な工事(下請発注額4,000万円以上など)を元請として行う場合は、現場に監理技術者を専任で配置することが義務付けられます。
監理技術者は、1級施工管理技士などの資格保有者である必要があります。
高度な技術と経験が求められます。
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人件費の増加:資格保有者の採用や育成にはコストがかかり、一般の技術者と比べて高い水準の報酬が必要となる場合が多いです。
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現場管理の制限:監理技術者は原則として他の現場との兼任ができないため、複数の大規模工事を同時に進めるためには、その分の監理技術者の数を確保しなければなりません。
デメリット3:下請指導監督義務に伴う事務作業とリスクの増大
建設業法に基づく下請指導監督義務は、特定建設業の元請としての責務を増大させます。
下請契約の書面化、不当な取引の防止、代金支払期日の厳守など、法令遵守を徹底するための事務作業が増加します。
これを行うための法務や経理の体制強化が必要となります。
もし、この指導監督義務を怠った場合は、行政庁から指導や監督処分を受ける可能性があります。
企業の信用に傷がつくリスクが発生します。
特に、違反行為が悪質な場合は、罰金や営業停止処分などの重い罰則が科せられることもあります。
特定建設業 許可要件:財務・技術・経営の深掘り
結論:特定建設業の許可要件の難易度は一般建設業に比べ「非常に高い」と言えます。特に、財務要件の基準額が高く、満たすために増資や融資計画、会計処理の調整が必要となるため、取得準備の時間と費用が格段に増加します。
財産的基礎要件の具体的な数値と判断基準
結論:特定建設業の財務要件は、万を超える額の自己資本や流動比率が基準であり、企業の安定性を証明するための最も重要な指標です。
許可申請時に必要な財産的基礎の要件は、申請直前の決算書に基づいて判断されます。
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欠損の額:直前の決算書における欠損の額が、資本金の20%を超えていないこと。資本金2,000万円の場合、400万円を超える欠損があってはいけません。財務状況を改善するための計画が必須です。
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流動比率:流動資産を流動負債で割った比率が75%以上であること。流動比率は短期的な支払能力を示し、この比率が低いと資金繰りに問題があると判断されます。
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自己資本の額:純資産の額が4,000万円以上であること。自己資本は企業の安定的な基盤を示し、これが高いほど外部の信用も得やすくなります。
専任技術者の詳細要件と指定建設業
結論:特定建設業の専任技術者は、原則として実務経験のみでは要件を満たせず、高度な国家資格の保有が必須です。
特定建設業の許可を受けるためには、営業所ごとに専任技術者を常勤で配置する必要があります。
特に、土木工事業、建築工事業、電気工事業、管工事業など7業種(指定建設業)に該当する場合は、以下のいずれかの要件が必須です。
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1級施工管理技士、建築士などの国家資格を保有している者。
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一般建設業の専任技術者の要件を満たした後、2年以上の指導監督的な実務経験を有する者(平成6年の改正以前に取得した者のみなど、条件は非常に限定的)。
経営業務管理責任者の要件緩和と最新動向
結論:特定建設業の経営業務管理責任者(経管)の要件は、法改正により一部緩和され、従来の「個人」の経験に加え、補佐者の設置など、企業の体制も評価されるようになりました。
経管の要件は、一般建設業と特定建設業で共通していますが、特定建設業の申請時は、行政庁がより厳格に審査する傾向にあります。
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改正後のポイント:常勤役員のうち1人が、建設業の役員経験を5年以上有すること、または役員などの地位に準ずる地位で6年以上の経験を有することなどが基本です。
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AIO対策:音声検索で「経管の要件は変わったか」と検索するユーザーが多いため、最新の法改正の内容に基づき、旧基準との違いを明確に示しています。
許可申請の具体的な流れ、費用、および成功戦略
結論:特定建設業の許可申請は一般建設業に比べ、書類準備の時間と費用が増加します。
不備を防ぐための専門家のサポートが成功の鍵です。
特定建設業許可の申請手続きと流れ
結論:特定建設業の申請手続きは、事前の準備と財務状況の調整に時間を要するため、全体で数ヶ月の期間を見込む必要があります。
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事前準備と相談:要件を満たしているかどうかを、行政書士に相談して確認します。特に財務要件を満たすための増資や決算の調整が必要かどうかを判断します。
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必要書類の収集と作成:法人の登記事項証明書、役員の身分証明書、財務諸表、専任技術者の資格証など、膨大な書類を収集します。特に、特定建設業は財務関連の書類が詳細であり、正確な書類作成が求められます。
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申請書の提出:営業所を管轄する都道府県知事、または国土交通大臣に申請書類を提出します。
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行政庁の審査:提出された書類に基づき、行政庁が厳格な審査を行います。審査期間は数週間から数ヶ月程度です。
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許可の通知:審査をクリアすれば、許可が下り、営業を拡大することが可能になります。
取得にかかる費用(手数料と報酬)の目安
結論:特定建設業の取得にかかる費用は、一般建設業と比べ て申請手数料も行政書士への報酬も高くなる傾向にあります。
| 費用の種類 | 知事許可 | 大臣許可 | 内訳と注意点 |
| 申請手数料(実費) | 46万円 | 46万円 | 知事許可と大臣許可で金額は同じです。不許可の場合も返還されません。 |
| 行政書士報酬の目安 | 25万円~50万円 | 35万円~75万円 | 申請の難易度や書類作成の量によって大きく異なります。 |
| その他費用 | 数万円~数十万円 | 数万円~数十万円 | 登記変更費用(増資の場合)、証明書類の取得費用などが含まれます。 |
建設業許可の種類:知事許可と大臣許可
結論:特定建設業は、営業所の所在地によって、一つの都道府県内のみの「知事許可」と、複数の都道府県にまたがる「大臣許可」の2種類に分けられます。
大臣許可を取得することで、全国規模での事業展開が可能となる一方、申請手続きはより複雑です。
国土交通省本省または地方整備局が管轄します。
当事務所は、知事許可と大臣許可の両方に対応しています。
企業の成長戦略に応じた適切な方法を案内します。
特定建設業を維持・更新するための義務と対策 (21文字)
結論:特定建設業の許可は5年ごとに、厳格な財務要件の再審査を伴う更新手続きが必要です。
許可取得後も継続的な管理が義務付けられます。
特定建設業の許可更新と継続的な要件維持
結論:特定建設業の許可更新は5年が期間であり、更新申請時にも財産的基礎の要件を満たしているか、厳しくチェックされます。
許可期間中に財産的基礎の要件を一時的に満たせなくなった場合でも、直ちに許可が取り消されるわけではありませんが、更新時に要件を満たせないと、許可が失効してしまいます。
大規模工事の元請業務ができなくなります。
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対策:会計処理の専門家と連携して、流動比率75%や自己資本4,000万円を常に維持できるよう、計画的な財務管理を行います。2025年の最新の税制や建設業法の改正動向にも注意を払う必要があります。
建設業法に基づく下請代金の支払義務と罰則
結論:特定建設業は、下請契約に関し て、元請としての強力な指導監督義務を負い、代金の支払遅延や不当な減額に対しては、厳格な罰則が規定されています。
建設業法では、特定建設業の元請に対し、下請負人への代金支払を受領から一定期間内に行います。
不当に低い代金を設定することを禁止しています。
これは、下請業者の経営安定と適正な取引を確保するためです。
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違反への対応:違反行為があった場合は、国土交通省や都道府県の行政庁による指導や監督処分の対象となり、最悪の場合は営業停止や罰金が科せられます。コンプライアンス体制の徹底は、特定建設業を維持する上で最も重要な要素の一つです。
技術者と役員の変更手続きと注意点 (24文字)
結論:特定建設業の許可取得後も、経営業務管理責任者や専任技術者、役員の変更があった場合は、速やかに変更届を提出する義務があります。
変更手続きを怠った場合も、建設業法違反となります。
指導の対象となる可能性があります。
特に、監理技術者や専任技術者が退職した場合 は、直ちに後任を確保して配置する必要があります。
この際の手続きの正確性が求められます。
当事務所では、これらの変更手続きも迅速に対応しており、企業の皆様に代わり、行政への対応を行います。
特定建設業と税金:会計・財務の専門的知識
結論:特定建設業の取得は、税金の直接的な増減には繋がらないものの、財務要件をクリアするための増資や会計処理が、法人の税務に間接的に影響を及ぼします。
増資と法人事業税への影響
結論:特定建設業の要件を満たすための増資は、資本金の額を増加させます。
結果として法人事業税の計算方法に影響を及ぼす可能性があります。
法人の資本金が1億円を超える場合 は、法人事業税が「外形標準課税」の対象となります。
売上高や利益の有無に関わらず、事業の規模に応じた税が課せられます。
特定建設業の自己資本4,000万円の要件は、直接的には1億円を超えるわけではありませんが、事業拡大の過程で増資を続けた場合は、将来的に税務上の取り扱いが変わる可能性を考慮して、税理士と綿密な相談を行う必要があります。
資金調達と融資:金融機関の評価
結論:特定建設業の許可は、厳格な財務基準をクリアしたことの証明となり、金融機関からの信用評価を高め、融資を得る際に有利に働きます。
流動比率75%や自己資本4,000万円は、銀行が融資を判断する際の重要な指標の一つです。
特定建設業の取得は、企業の安定性と将来の成長性を外部に示し、資金調達の選択肢を広げます。
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具体的な活用法:公共工事の受注を目的とした融資、新しい機械や設備の導入に伴う借入など、事業拡大を後押しするために、許可を戦略的に活用することが可能です。
関東エリアに特化した行政書士の専門サポート (22文字)
結論:東京、埼玉、千葉、神奈川の建設業許可を専門とする行政書士に依頼することで、地域特有の審査基準に対応した、不備のない申請を実現します。
地域ごとの審査基準の違い
結論:特定建設業の許可は、知事許可の場合、各都道府県で書類の記載方法や審査の厳格さに若干の違いがあるため、地域に精通した専門家の知識が不可欠です。
弊事務所は、東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県の各行政庁との手続き実績が豊富です。
それぞれの地域の特性に応じた迅速で正確な対応を提供します。
特に、都心部での営業所を持つ企業に対しては、交通の便やアクセスも考慮した、フットワーク抜群のサポートを行います。
特定建設業と一般建設業の違いのまとめ
| 項目 | 特定建設業 | 一般建設業 |
| 下請発注上限額 | 制限なし | 4,000万円未満(建築は6,000万円未満) |
| 監理技術者 | 必須配置(一定規模以上の場合) | 主任技術者の配置 |
| 財産的基礎要件 | 自己資本4,000万円、流動比率75%など厳格 | 500万円の資金調達能力 |
| 下請指導義務 | 有り | 無し |
特定建設業の取得がおすすめな企業の特徴
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元請として大規模な公共工事や民間工事の受注を本格的に目指す企業。
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事業拡大を計画し、資金調達力や社会的信用の向上を図りたい企業。
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複数の下請業者を常時利用して、工事を行いたい企業。
特定建設業のデメリットを回避する戦略
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財務専門家との連携:決算前に財務要件をチェックし、増資や負債の調整を計画的に行います。
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人材育成と確保:資格保有者の社員を育成するための計画を立て、継続的な技術力の向上に努めます。
佐藤栄作行政書士事務所 |
公開日:2025.11.17 09:30
更新日:2025.11.17 13:20



